第一章 〜横顔にキッス〜

 とある日曜日、今日は沙希ちゃんと山へハイキングに行くことになっている。
 なっている、なっている、なっていた………はずのだが、幾ら待っても一向に彼女が来る気配がない。

 「一体、どうしたのかな?」

 携帯にも連絡はなく、俺の頭の中を様々な想像が現れては消え、消えてはまた現れる。
 ”ぷるるる………””ぷるるる………”
 とその時、突然、俺の携帯が鳴った。誰だろう? 沙希ちゃんかな?
 しかし、急いで出るも意に反して電話の主は好雄だった。

 「おい、大変だぞ。」
 「何だよ好雄、おまえかよ。どうしたんだ、今日は用事あるって言ってただろ?」
 「何だよはないだろ?その用事、虹野さんの事なのに。」
 「え?沙希ちゃんがどうかしたのか?」
 「どうかって…お前、ちょっと前まで携帯の電源切ってなかったか?」
 「そういえば、切ってはないけどマナーにしてたな…」
 「さっき虹野さんから電話があって、風邪ひいて今日行けないけど携帯繋がらないからって、俺んとこへかかってきたという訳で…って、おい、聞いてるのか?おい!」

 昨日電話で待ち合わせの時間と場所を確かめ合った時はあんなに元気だったのに、一体どうしたんだろうか。
 俺は好雄との会話を早々に切り上げ、沙希ちゃんの家へと急いだ。

 (ハァ、ハァ、ハァ……………………やっと着いたぞ)

 ”♪ピンポ〜ン、ピンポーン、ピンポーン”
 「…はい、虹(ゴホ)野です。」

 「あ、沙希ちゃん、俺だけど。」
 「え、どうして?何で今あなたがここにいるの?」
 「沙希ちゃんが来れないって話、好雄から聞いてすっとんできたんだ。」
 「あ、そっか。あなたに電話したんだけど全然繋がらなくて、それで早乙女君に…」
 「そうだったんだ」
 「ごめんね…、せっかく二人だけ(ゴホ)のハイキングだったのに。」
 「なに言ってんだよ。沙希ちゃんと一緒なら場所なんて関係ないよ。」
 「嬉しい…あ、そこじゃ何だからとにかく上がって。」
 「うん。」

 俺はさっそく沙希ちゃんの部屋へと入っていった。
 すると、そこには苦しそうに、かつ申し訳なさそうに布団をかぶっている彼女の姿があった。

 「大丈夫?熱とかは?咳は?」
 「うん、もう大丈(ゴホ)夫。」
 「まあ、今日は無理しないでゆっくり休んでていいから。」
 「本当に、ごめんね。」
 「仕方ないよ。って、確かこれで3度目だよね?こういう場面。」
 「あ、そういえばそうだね。そして、いつも側にいてくれたのはあなただった…って、そうだ、忘れてた。」
 「え、何を?」
 「あなたのために(ゴホ)、お弁当、作ってたんだった。」
 「え、そうなの?」
 「うん。だから、今ここで一緒に食べよ。」
 「でも、風邪のほうが…」
 「大丈夫。あなたの顔見ただけで治っちゃったから。」

 彼女はしきりにそう訴えるが、素人目に見てもとてもそうは見えなかった。だが、あまりに真剣な目で見つめられるともはや断ることなどできるはずがない。

 「じゃあ、一緒に食べよっか?」
 「うん。」

 こうして俺たちは彼女の手作り弁当を食べながら二人きりの時間を過ごしていった。
 そして、日も暮れてきてそろそろ帰ろうと思った、その時だった。

 「今日は、本当にごめんね。」
 「いいよ、気にしてないから。じゃあ、これで帰るね。」
 「あ、ちょっと待って、こっち来て。」
 「どうしたの?」
 「あ、あのね…」
 (chu!)
 「………大好きよ。」

 こうして、また一歩彼女との距離が近づいたのを感じた一日は終わりを告げたのであった。

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