第三章 〜虹色のX'mas eve(2)〜

 「あ、こっちこっち!」
 「久し振りだな、詩織。で、早速だけどどこ行こうか?」
 「とりあえずお茶しない?丁度いいところに喫茶店もあるみたいだし。」
 「ああ、いいよ。」

 こうして、二人はその喫茶店へと入っていった。

 「で、今日はどうしたの?急に電話くれたんでびっくりしたよ。」
 「そうね、ただ何となく逢いたくなっただけ、という訳じゃないのは確かかな。」
 「それだけじゃない、というと?」
 「あのね、私が高校卒業してから大学に入ったのは知ってるよね?」
 「あ、ああ…」

 詩織はその優秀な成績から一流大学に進み、今は一流企業で普通のOLとして働いている。

 「そこは環境も素晴らしいし、そこでまた新しい友達も出来たし、何も言うことはなかったの。でも…」
 「でも?」
 「何かが足りなかったの。で、そう考えている時にあなたがレギュラー獲得したというニュースを新聞の記事で知って思ったの。”今の私に足りないのはやはりあなたという存在だったんだ”、と。」
 「そうなんだ。でも、俺はもう…」
 「うん、分かってるよ。虹野さんとのことは。」
 「………」
 「実はね、あの日、私も勇気を出そうって思ってたんだけど、彼女が机の中に手紙を入れているところを見てしまったの。だから…」
 「………」
 「でね、彼女、虹野さんもとってもいい子だし、私もその時は一度あなたのことあきらめることにしたの。でも、やっぱりだめだった…」
 「でも、俺はもう…」
 「うん、分かってる。分かってるんだよね。だけど…」

 この頃から詩織の目に光るものが浮かび始めていた、その時だった。

 「今日は付き合わせてごめんね。とっても助かったわ。」
 「そんな、こっちこそ楽しかったから。でも、今日は今まで以上に気合入ってるって感じ。食材もあの人好みのものばっかだし。」
 「あ、それは… だって、今日は二人にとって”特別な夜”だから…」

 何と、沙希が親友の如月未緒とともに入ってきたのだ。俺は何とか顔が合わないようにしてたのだが、それもほんの少しの間だった。

 「あれ、ここにいたんだ。って、ちょっと、どうして藤崎さんと一緒なの?」
 「あ、いや、これは…」
 「約束したじゃない! 今日は二人きりでパーティーするって、約束したじゃない!」

 そう言うと、沙希は一目散に店を飛び出していった。俺も後を追おうとした
 のだが、すぐさま詩織に止められてしまった。

 「待って。虹野さんには私から話すから、あなたはここで待ってて。」
 「でも…」
 「いいから、お願い。」
 「あ、ああ。分かった。」

 こうして、詩織も沙希の後を追って店を飛び出して行き、後には俺と如月さんだけが残された。

 「あの、大丈夫だと思いますよ。沙希ちゃんってそんな子じゃないですから。」
 「うん、分かってるよ。ただ、今のは余りに突然で、詩織も泣いてたみたいだったから…」
 「とにかく、今は藤崎さんに任せて、あなたは今晩沙希ちゃんの家に行ってあげて
 ください。ここは、藤崎さんの方は私が待ってますから。」
 「ありがとう、如月さん。じゃあ、そうするよ。」

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