第五章 〜出会えて良かった(1)〜

 卒業式の日に「伝説の樹」の下に結ばれてはや数年、いよいよ今日は俺と沙希、「二人のゴールであり、かつ新たなスタート」の日である。
 プロのサッカー選手としてそこそこの成績を残し、何度かプレッシャーのかかる場面に出くわしてもそれを克服して結果を出してきた俺だったが、さすがに今日は勝手が違うみたいだ。

 「ねぇ?」

 ただ、緊張の中にも嬉しさが顔を覗かせるのは、やはり相手が沙希という素晴らしい女性(ひと)だからであろう。可愛いし、作る料理は絶品だし、何も文句のつけようがない。

 「ねぇ?」

 彼女との出会いは高校時代に遡る。当時何の目標もなくだらだらした生活を送っていた俺の前に現れたのが、彼女、虹野沙希という女のコだった。
 「あなたには、根性があるわ!」
 最初聞いた時は”何訳分からんコト言うとんじゃ、この女?”と思ったものだったが、知らないうちにサッカー部に引っ張り込まれ、いつしか競技そのものより彼女自身に興味を持つようになっていった訳で・・・

 「ねぇってば。」

 「え、どうしたの?」
 「さっきから呼んでるのに、どうして返事してくれないの?」
 「いや、緊張を紛らわすために昔のこと思い出したりとかしてたんだ」
 「そうなんだ・・・って、どうかな?これ。」

 目の前には純白のドレスに身を包んだ彼女が立っている。余りの可愛さに俺は口にする言葉がなかった。

 「ねぇ、どう?かな?」
 「うん、とっても似合ってるよ。やはり高校の時とじゃ全然雰囲気が違うね。」
 「え、高校の時?」
 「ほら、初めて二人きりで出かけたとき、あったじゃない。」
 「あ、あの時…。でも、とっても恥ずかしかったんだからね。」
 「で、その時あなたが私を見て何て言ったか覚えてる?」
 「えっと、確か…今度それ着る時は?とか何とか…」
 「嬉しい、覚えててくれたんだ。」
 「実はね、それ聞いた時から、いつかあなたとそうなれたらいいな、なんて思ってたの」
 「沙希?」

 そうこうしているうちに挙式〜披露宴と行事は進み、舞台は二次会へと移っていき、さながら「きらめき高校同窓会」の様相を呈していた。

 (朝日奈)「おめでとう、お二人さん。ねぇ、ハネムーンはどこへ行くの?あ、お土産はチャネルの5番をお願いね。」
 (虹野) 「ハネムーンはイタリアに行くの。」
 (朝日奈)「イタリアぁ?どーしてまたそんなとこに行くの?」
 (虹野) 「だって、彼がセリエが生で見たいって言うから」
 (朝日奈)「あ、そっか。サッカー選手だもんね。って、どうもごちそうさま。」
 (虹野) 「え?ごちそうさま?って?」

 (伊集院)「やあ庶民、どうだね、わが伊集院財閥が誇る超豪華高級ホテルで披露宴を催した感想は。」
 (主人公)『ったく、昔のよしみで招待したら勝手に会場変えやがって』
 (伊集院)「何か言ったかね?」
 (主人公)「何でもねえよ」
 (伊集院)「まぁ、そうひがむな。君みたいな庶民には二度と味わえない贅沢な宴なのだからね。」
 (主人公)『こいつだけは、ちっとも変わってねぇな』
 (伊集院)「まぁ、せいぜい楽しんでいってくれたまえ。はーっはっはっはっは」
 (主人公)『この野郎、誰が主役だと思ってんだ?』

 (秋穂) 「虹野先輩、おめでとうございます。」
 (虹野) 「あ、みのりちゃん、ありがとう。」
 (秋穂) 「それにしても綺麗…虹野先輩。」
 (虹野) 「そ、そう? ありがとう」
 (秋穂) 「先輩、虹野先輩泣かせたら私が承知しませんからね。」
 (主人公)「はは、相変わらず手厳しいな。 俺がそんなことするわけないのはみのりちゃんも知ってるじゃないか。」
 (秋穂) 「そうですけど、先輩結構有名になっちゃたし。その、いろいろ誘惑とかもあるかもしれないし。」
 (虹野) 「大丈夫よ。だって、私が選んだ人だから。」
 (秋穂) 「?わぁ、言っちゃった!」
 (虹野) 「え? 何? どうしたの?」
 (秋穂) 「まぁ、一応そういうことにしておきます。それじゃあ、お幸せにね。」
 (虹野) 「ありがとう、みのりちゃん。」

こうしていろいろな人から祝福の言葉を受けた宴も終わりの時を迎えた、その時だった。

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