「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」


第1幕:沙希ちゃんとの舞台裏

 気がつくと私は、トランシーバーを持たされて伝説の樹のよく見える校舎の影に立っていました。
 告白のときには、段取りがあります。
 まず女の子が校舎の影に待機します。
 校舎の中ではもう1人の管理人がいて、相手が来る時にその相手をコントロールしています。待機場所からは直接伝説の樹が見えないですし、誰が相手なのかはそのもう1人の管理人さんも知らないので、本当にドキドキした、と去年私がお願いした管理人さんは言っていました。
 もちろん私もそのもう1人の管理人さんが誰かは知りませんし、そして告白する女の子の相手も教えられていません。ですから、本当に私もドキドキしているのです。
 もちろん告白する女の子も、告白を受ける男の子も、待機場所に着く時刻は知らされています。遅れは許されません。遅れた場合は、告白自体ないものにされてしまうので、どちらも真剣です。過去数年間、集合時刻に遅れて告白できなかったという話は聞きません。
 時刻になったら、女の子を伝説の樹に送り出します。そしてセッティングが完了したら、もう1人の管理人さんに連絡して男の子を出してもらう、それが私の仕事です。

 それにしても、もう1人の管理人って、誰なんだろう?

 女の子の待機場所は、ちょうどサッカーグラウンドに面していて、普段ならサッカー部員が活発に活動している風景が見られますが、今日は卒業式、どの部活も休みにするよう通達されているようです。
「あれ? もしかして… 藤崎さんも告白を?」
 突然、女の子から声をかけられました。
 私はその声に憶えがありました。振り返って、
「あっ、虹野さん、早いですね」
 そう彼女に声をかけました。
「こんにちは、藤崎さん。 …でもどうしたんですか? トランシーバーなんて持って…」
 さすがに虹野さんも私の恰好から告白をしに来たようには見えないと判断したようでした。
「うん、実はね…」
 私は虹野さんに私の仕事を教えました。
「そっか… そうだよね。そうでないと、伝説の樹の下での告白、パニックになっちゃうよね」
 虹野さんはそう言って納得してくれた。

「そう言えば、虹野さんは誰に告白するつもりなんですか?」
 私もちょっと気になっていたので、思わず虹野さんに聞いていた。
「うん、あのね、『虹野ももんが』という人なんだけど…」
「『虹野ももんが』?」
「あのね、ハンドルネームといってね、インターネットでの仮の名前なんだって。本名は…」
 突然パトカーがけたたましくサイレンを鳴らしながら5〜6台通り過ぎていったようで、そのあとの虹野さんの言葉が全く聞き取れませんでした。
「…それでね、最初は私も気がつかなかったんだけど、最近実は同じきらめき高校の3年生だということが分かったの。」
「そうなんですか… でも虹野さんは一体どのようにして彼と知り合ったんですか?」
 私がそう聞くと、虹野さんは微笑みながらことの顛末を話してくれました。

 最初は彼が開いていた「沙希ちゃんのお弁当」というHPを偶然虹野さんが見かけたことがきっかけでした。
「最初はお料理のことが載っているページかな、と思って覗いてみたんですけど、トップページに書いてあったセリフにビックリしたの」

 そういえば私も最近見たのですが、確かにこう書いていました。
ときめきメモリアル&虹野沙希ファンサイト、「沙希ちゃんのお弁当」へようこそ
当サイトは「虹野沙希ちゃんのファンの、虹野沙希ちゃんのファンによる、虹野沙希ちゃんのファンの為のホームページ」を目指して更新しています(^^; 」

「なんか私がストーカーされているようで、ちょっと気味が悪かったの。それでそのサイトの管理人の虹野ももんがさんに抗議のメールを入れたの」
「そうだったんですか。それでどうなったんですか?」
「うん、その『虹野ももんが』さんは、同じ名前の女の子が同じ学校にいるのは分かっていたけど、彼が興味を持っているゲームの中の女の子のファンサイトなんだ、と説明してくれて、誤解は解けたんです」
「そうなんですか…」
「それから学校でも話すようになって… 結構彼って可愛いな、なんて思うことも多いの。」
「でも虹野さんって、いつも『根性よ!』と言っていて、一生懸命頑張っている男の子を応援していたと思うんですけど、一体どうしたんですか?」
 私はその辺がよく聞きたいと思いました。実際サッカー部のマネージャーをしていた時には、一生懸命頑張っていた男の子のことを応援していて、もしかしたらその人のことを好きになっていたのではないかと思っていたのです。
「うん、でも彼のことを私の後輩が好きだ、と言い出して… そう言えば知っているよね、今生徒会の副会長をしている秋穂みのりちゃん… 彼女に思いっきりぶつかってみたら、って提案してみたんです」
「そうだったんですか。それで?」
「うん。でデートの翌日にみのりちゃんに聞いてみたら、みのりちゃん、歩くのが辛そうな感じなのに満面の笑みを浮かべて、『虹野先輩、ゴメンなさい。私たち、付き合うことにしたんです』って言って… 私、まさかと思ったから、その日の部活の時に彼に聞いてみたら、彼もみのりちゃんと付き合うことを認めて… あの時すごくショックが大きかったな、彼やみのりちゃんと会うのが辛くて、しばらく学校休んだくらいだから…」
「そうだったんですか…」
「でも今は大丈夫。今の彼、結構気を使ってくれているし、だから私も彼に気を許すようになったのかも知れないな…」

 その時、トランシーバーから誰かが叫ぶ音が聞こえてきた。
 私は思わずトランシーバーを手にとってボタンを押しながら、
「はい、管理人Aさん、どうかしましたか?」
 とトランシーバーの向こうの相手に声をかけた。
 …そう言えば忘れていました。管理人はお互いに名前を知らないので、「管理人A」「管理人B」と呼び合うことになっています。
「詩お… いや、管理人Bさん、こちらの準備が完了しました。お願いします」
 いつも聞き慣れている声でした。私は思わず胸が熱くなるのを感じました。
 彼が向こうで管理人をしている…
 そのことだけで、私は心から嬉しくなりました。
 時計を見ると、もう12時12分になっています。
「それじゃ虹野さん、頑張ってね。吉報楽しみにしています。」
 私がそう言うと、虹野さんは緊張した面持ちで私に頷いてから、伝説の樹に向かった。

 虹野さんが伝説の樹の陰に隠れたのを見計らって、私は彼に連絡を入れました。
 それが伝わったのか、しばらく経って、『虹野ももんが』さんが校舎から飛び出してきました。
 背が小さいし、結構童顔です。虹野さんも可愛いといってましたけど、確かにそう思います。
 その彼に向かって、虹野さんが一生懸命自分の想いを伝えています。
 彼、照れた顔をしながら、虹野さんの想いを聞いているようです。
 突然虹野さんが嬉しそうな顔をしました。 どうやら想いは伝わったようです。
 良かった… そしてこれからもお幸せに…
 私は心の底からそう思いました。

「藤崎さん…」
 次の瞬間、不意に後ろから声をかけられました。


(編集後記)
 さて、とりあえず第1幕を完了させました。

虹野ももんが様、およびこれから出演予定の皆様

 すみません、基本的には詩織ちゃんの物語なので、ゲスト出演といってもこれくらいしか出ないのです。(苦笑)
 できるだけのことはしようと思ったのですが、このような感じでこれからも書くことになるのかな、と思います。
 もしプロフィール等書いて欲しいことがありましたら、メールで送っていただければ(^^;)
 そうすれば私の方でもそれなりの対応は出来ます(^^)

 最後になりますが、虹野ももんが様よりコメントをいただきたいと思います。宜しくお願いいたしますm(_ _)m

たしかに本人から見たらストーカーですね。(苦笑)
まぁそれはそれとして、楽しんで読ませてもらいました。今後の展開を期待しています。

                                      (by 虹野ももんが@沙希ちゃんのお弁当)

 ということで、引き続き第2幕にいきたいと思います。

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