「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」


第3幕:紐緒さんとの舞台裏

「こんにちは、藤崎さん」
 長い蒼髪の少女が、私の前に立っていました。いつものことですので慣れてしまったのですが、前髪がちょうど右目を隠している感じです。
「あっ… 次の紐緒 結奈さんですね」
 私がそう聞くと、紐緒さんは微笑しながら、
「そうよ。 …まさかあなた、記憶力が欠落してきはじめたの?」
 紐緒さんの答えはすごく知的な感じなのですが、 …でも何だか危なさそうなのですが…
「藤崎さんも、まさか彼のことを?」
 紐緒さんは真剣な表情で私に詰め寄ります。何だかクールな感じの紐緒さんらしくない、というか…
「違うわ。私、ここで『伝説の樹』で男の子に告白する人の案内をしているだけなの。もちろん私にも想っている人がいて、その人に告白したいと思っているけど、 …でも多分紐緒さんの想っている人と違う人だと思います。」
「そう、ならいいんだけど…」
「紐緒さん、そんなにその人のこと好きなんですね」
 私がそう言うと、紐緒さんはいきなり顔を真っ赤にして、
「馬鹿言っているんじゃないわ。 そんなんじゃ…」
 そう私に反論して来ました。でも、そのセリフと表情が全く合っていないような気がします。

「それで、紐緒さんは一体誰に告白するつもりなんですか?」
 私にしては真剣な表情で聞きました。いくらなんでも、紐緒さんを怒らせたらどういうことになるか、何となく分かります…
「私、今日ここで『ヒラタツ』さんに告白することになっているわ」
 私は、紐緒さんの発言にビックリして聞き返しました。
「『ヒラタツ』さん? もしかしてきらめきにいる生徒なんですか?」
「当然じゃない! 『ヒラタツ』というのはハンドルネームで、本名は…」
 紐緒さんがその続きを言おうとした時、きらめき高校の周囲でいつの間にか暴走族がけたたましく騒音をまき散らして通り過ぎたので、その後の紐緒さんの話を聞くことは出来ませんでした。
「もう! 科学の利器をあんな下らないことに使うなんて!」
 紐緒さんはそう吐き捨ててから、話を続けました。

 2年の秋に、サイト運営をはじめ様々な趣味を持っている生徒の噂を聞きつけたの。
 それが『ヒラタツ』さんなんだけど、彼、いろんな研究に使えたわ…

「そう言えば知ってる? 実は『ヒラタツ』さん、あなたに好意を持っていたみたいだわ」
「えっ、そうだったんですか?」
 もちろん私には初耳です。
 もっともそれを知っていたからといって、私はどうしたかといったら、恐らく幼馴染みのあの人が好きですから…
「だから私が実験材料としてあなたに気を向けないように一生懸命振り向かせたわ」
「そうなんだ…」
 私は、紐緒さんに結構情熱的な感じを受けました。
 もちろん、紐緒さんは結構科学とか機械関係に並々ならない努力をしていたことは知っていました。でもそれが理由だからといって、まさか紐緒さんが男の子の気を惹こうと一生懸命になるとは思ってみませんでした。でもこう言ってしまうと紐緒さんも怒るでしょうけど、やっぱり1人の女の子、なんですね。
「でもまさか、私が恋に溺れるなんて、思ってみなかったわ。気がつくと彼のことを考えたりして… 私には野望があった筈なのに、そんなことも忘れて彼のことを思う日も少なくなかったわ」
「紐緒さん、どんな野望なんですか?」
「私が開発したロボットで世界を征服するの」
 私、思わず腰を抜かしていました。
 だってそうでしょう。まさか私の同窓生で、世界を征服しようなんて考える人がいるなんて… ねっ!
「でもダメだったわ。いつの間にか彼のことが私の脳から離れなくなってたわ。世界征服を企てようとしている私が、まさか1人の異性に心を奪われようとしている、そのことが許せなくて、私彼に決戦を挑んだの。『世界征服ロボ』を使って…」
「それで、その結果はどうなったんですか?」
 私、何とか立ち上がって、紐緒さんに聞きました。
「私の負けだったわ… どうしても彼を傷つけることができなかった。そこを彼に突かれたの。完敗だったわ…」
 紐緒さんがそう言って、空を見上げました。私もつられて空を見上げます。
「私の心は決まったわ。世界征服の野望は捨てる。これからは、彼、『ヒラタツ』さんのために尽すわ。だからここで告白するの…」
 紐緒さんは空を見上げながら、自分に言い聞かせるように喋りました。

 その時、トランシーバーから誰かが叫ぶ音が聞こえてきました。
 私は思わずトランシーバーを手にとってボタンを押しながら、
「はい、管理人Aさん、どうかしましたか?」
 とトランシーバーの向こうの相手に声をかけました。
 さすがに3人目となると、要領は分かってきます。相手が彼だと分かっても、お互い仕事と割り切って会話することは決してできないことではありませんでした。私はもちろん、彼も…
「こちら管理人Aです。管理人Bさん、こちらの準備が完了しました。お願いします」
 彼もそろそろルールが分かってきたようです。さすがに頭の回転は早いな、そう思いました。
 時計を見ると、もう12時28分になっています。
「それじゃ紐緒さん、頑張ってね。吉報楽しみにしています。」
 私がそう言うと、紐緒さんは妙なくらいに落ち着いた表情で私に頷いてから、伝説の樹に向かいました。
(頑張ってね、紐緒さん!)
 私は心の中で、紐緒さんにそう叫んでいました。

 紐緒さんが伝説の樹の陰に隠れたのを見計らって、私は彼に連絡を入れました。
 それが伝わったのか、しばらく経って、『ヒラタツ』さんが校舎から飛び出してきました。
 『ヒラタツ』さん、なんかビックリしています…
 そう言えば紐緒さん、さっきの会話で最近彼と決闘をした、と言っていました…
 まさか、あれが紐緒さんなりのけじめの付け方だとは気がつかなかったのかも知れませんね…
 突然紐緒さんが嬉しそうな表情になりました。どうやら想いは伝わったようです。
 良かった… そしてこれからもお幸せに…
 私は心の底からそう思いました。
 次の瞬間、紐緒さんの声が聞こえて来ました。
「良かったわ。これでこれからも世界征服の野望は続けられるわ。あなたの助けを借りれば、私なんだってできるわ!」
 思わず唖然となりました。結局紐緒さんの野望は捨て切れなかったようです。
 一体「ヒラタツ」さんは紐緒さんの言葉をどう捉えたのでしょうか…

「 お や ま あ 、 藤 崎 さ ん 、 ど う な さ い ま し た か ? 」
 次の瞬間、不意に後ろから声をかけられました。


(編集後記)
 とりあえず第3幕を完了させました。

 …って、今回もなんだか遅くなりました。
 早めに書こうと思っているのですが、本当に申し訳ありません。
 何分筆者が遅筆な上に頭が悪いので(ぉぃ!)

 ところで…
 今回から新システムの第1弾としてヒラタツ様「@-Hirataz Hi-Land」にて掲載ののち、1週間後に虹野ももんが様「沙希ちゃんのお弁当」、R-chan館長様「乙女想夢」及び私のところの「Twilight Express」にて掲載、という体制をとらせていただきます。
 考えてみれば、ゲスト出演して下さる方にプレゼントしないでどうなる、という感じでしたから…
 ということで…

 最後になりますが、今回のゲストヒーローでありますヒラタツ様よりコメントをいただきたいと思います。宜しくお願いいたしますm(_ _)m

 はははっ。紐緒さんの可愛いところがしっかり出ていていいですねぇ〜
 紐緒さんのこまやかな観察力が生きていて面白かったです!では。

 ありがとうございました。
 ということで、次の第4幕、R-chan館長様の「乙女想夢」にてお会いしましょう〜(^o^)/

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