「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」


第5幕:美咲さんとの舞台裏

「藤崎先輩、御苦労様です」
 見覚えの余りない茶色のロングヘアーの少女が、穏やかな表情で私の前に立っていました。
「あっ… 次の美咲 鈴音さん、ですか?」
 私がそう聞くと、美咲さんは微笑しながら、
「はい、そうです」
 美咲さんは笑顔を見せたまま、私に答えてくれます。
 …それにしても、美咲さんって1年年下だというけど、何だか大人っぽい感じがします。やはり恋をしてるって、凄いことなんでしょうね。
「藤崎さんも、ここで告白するんですか?」
 美咲さんが聞いてきました。
「うん、私もこのあと好きだと告白するつもりだよ。でもその前に、美咲さんたちが告白するお手伝いをしなければならないので、ここでみんなを励ましているんです。」
「そうなんですか… 藤崎さんも大変ですね。私なんかは好きな人に告白するだけなのに、それを助けてくれる人の存在なんて考えもしなかったから… でも藤崎さんも幸せになってくれるといいですね」
「ありがとう。 私は美咲さんが幸せになってくれればそれだけでも嬉しいわ」
 もちろん私も彼に告白して、伝説を成就させたい気はあります。でも今は美咲さんに伝説を成就させてあげたいな、それも本心でした。
「こちらこそ、本当に申し訳ありません。気を使ってくれまして…」
 美咲さんはそう言ってすまなさそうに私を見つめてきました。

「ところで、美咲さんは一体誰に告白するつもりなんですか?」
 私にしては真剣な表情で聞きました。これほどまでに笑顔の素敵な女性のハートを射止めた人って、誰なんでしょうね。
「これから、『流離いの剣士』さんに告白しようと思っているんです」
 私は、美咲さんの発言にビックリして聞き返しました。
「『流離いの剣士』さん? 一体どういう人なんですか?」
 基本的には伝説はきらめき高校の生徒に言い伝えられたものですから、部外者がそのような伝説を知っていることなんてあり得ないのですが、私はその時焦っていました。
「あっ、その人はもちろんうちの生徒です。で今年の卒業生です」
「そうなんだ、一体誰なんですか?」
 やっぱり聞いちゃいました。こういうのはあまり言いたがらない人もいるのですが…
「あの、ですね。私もいた『彩』でギターをやっていた人です」
「あ〜、あの人なんだ!」
 私はそれで納得しました。もちろん「彼」は有名人ですから、名前を知らない人はいません。
 珍しく本名を聞く時に突如聞こえてくる音も、今は聞こえてきません。

「もちろん私と彼との付き合いは、『彩』が最初でした。彼は私が入ってきて間もなく、キーボードを弾いている私に優しく曲の調子を聞いて来ました」
「美咲さんって、あの彼に質問されるくらいそんなに音感あるんですか」
 私は美咲さんの隠れた才能にビックリしました。
「いいえ、私そんなに才能があるわけではありませんよ。彼に聞かれた時も、『私そんなに細かいことは分かりませんよ』と言ったんです。そしたら彼、何と言ったと思います?」
「えっ、何で、って…」
 何でだろう? 私も思わず考えてしまいました。
「彼ったら、『それでいいんだよ。普通の女の子が普通にこの曲を聞いて、どういう風に感じるか、それを聞きたかったんだ』って」
「へぇ〜、それで?」
「その時以来ね、彼、結構私のことそれとなく気にかけてくるようになったんです。私も彼のその気配り嫌じゃなかったですし」
「そうなんだ?」
「でそれ以来、彼を目で追っている私がいるようになったんです」
 彼も幸せ者ですね。こんな素敵な女の子を虜にするなんて。
 でもそう言えば、あの一件はどうなったんでしょう?
「そう言えば、片桐さんとの話はどうなったんですか?」
「うん、あの時は片桐さんを彼が追い掛けるようになって、なんだか嫌な気持ちでした」
 そう語る美咲さんの表情には陰りがあります。
「だから、彼を引っぱたいたこともあります。あの時、凄く辛い気持ちになりました」
 私は何も語らず、ただ美咲さんの言葉を受け止めました。
「あの時『彩』の先輩たちが私のことを本当に支えてくれて、その想いが彼に伝わってくれたのが、一番嬉しかったです。だから今も『彩』は私のもっと大きな居場所だと思っています」
 美咲さんはそう言って笑顔で私を見てきました。
「そして今日、それ以上の居場所を作れたらいいな、そういう風に思っています」
 私は美咲さんの表情を見て、大丈夫だなと確信しました。だって、これ以上ないくらいいい表情をしているんですもの。彼は絶対に彼女のこの表情を曇らせられないだろうな、そう思いました。
「そうですね」
 私はそう言ってひと呼吸したあと、美咲さんに自分の今の気持ちを伝えました。
「絶対美咲さんの想いは叶うと思います。だって、こんな素敵な笑顔のできる女の子を振るなんて、私だったら絶対できないと思います。自信を持って、彼に自分の想いを伝えてあげて下さい」
 美咲さんは真剣な表情で私のことばを聞いていました。その表情が、これ以上ないかも知れないというくらいに嬉しそうな表情になって、
「ありがとうございます。藤崎さんにそう言ってくれると心強いです」
 美咲さんはそう私に感謝の気持ちを述べてくれました。


 その時、トランシーバーから彼が叫ぶ音が聞こえてきました。
 私は思わずトランシーバーを手にとってボタンを押しながら、
「はい、管理人Aさん、どうかしましたか?」
 ともはや当たり前のようにトランシーバーの向こうの相手に声をかけました。
 彼は、ちょっと焦り気味の様子で、
「こちら管理人Aです。管理人Bさん、こちらの準備が完了しました。予定の時刻になっていますが、大丈夫でしょうか?」
 そう私に答えました。
 時計を見ると、もう12時43分になっています。
「それじゃ美咲さん、頑張ってね。吉報楽しみにしています」
 私がそう言うと、美咲さんは自分に勇気を込めるかのように一回大きく深呼吸してから、「それじゃ、頑張ってきます」と言って伝説の樹に向かいました。
(頑張ってね、美咲さん!)
 私は心の中で、美咲さんにそう叫んでいました。

 美咲さんが伝説の樹の陰に隠れたのを見計らって、私は彼に連絡を入れました。
 それが伝わったのか、しばらく経って、『流離いの剣士』さんが校舎から飛び出してきました。
 『流離いの剣士』さんも、さすがに緊張した面持ちです。
 美咲さん、私から見ても一生懸命、『流離いの剣士』さんに自分の想いを伝えているようです。
 私も陰から、美咲さんの想いが通じるように一生懸命祈っていました。
 突然美咲さんが嬉しそうな表情になりました。どうやら想いは伝わったようです。
 良かった… そしてこれからもお幸せに…
 私は心の底からそう思いました。
 次の瞬間、美咲さんは彼と腕を組んだかと思うと、まっすぐこっちに向かってやって来ました。
 彼は真っ赤な表情で私の前に立ちました。その隣で美咲さんは、
「ありがとうございました。藤崎さんに話を聞いて貰えたおかげで、彼と付き合うことになりました。藤崎さんも頑張って下さいね」
 そう言うと、深々と私にお辞儀をしてきました。
「分かりました。私も頑張るから、美咲さんも彼とお幸せに」
 私は美咲さんと彼にそう答えました。
 美咲さんと彼は、嬉しそうな雰囲気を漂わせながら、私のもとから去っていきました。
 私は彼女たちの後ろ姿を、嬉しそうな表情で見つめていました。

「し、詩織ちゃん…」
 次の瞬間、聞き覚えのある声が不意に後ろから聞こえてきました。


(編集後記)
 とりあえず第5幕を完了させました。

 …あと1ヶ月もないのですけど。
 3月1日に最終話を掲載する予定ですが、間に合うか(^^;;;;;)

 ところで…
 毎度毎度告白の前の様子を書くのは大変です。
 どんな事をテーマにして書こうかな、という事を考え、さらにその時のゲストキャラクターの性格などもサイトなどから読み取り、上手くつなげなければならないのですが、毎度毎度これでいいものやら、と自問自答しながら作っております。
 この作品も流離いの剣士様に気に入っていただけると宜しいのですが…
 流離いの剣士様も(トリスタで)結構お忙しいようですけどw、お身体にお気をつけて下さいませ。

 最後になりますが、今回のゲストヒーローであります流離いの剣士様よりコメントをいただきたいと思います。宜しくお願いいたしますm(_ _)m

 ありがとうございました。
 ということで、次の第6幕、箕や様編&第7幕、まありんこん♪様編にてお会いしましょう〜(^o^)/

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