ときめきダイアリィ〜虹野沙希〜
時計の音だけがその部屋に響いていた。
パジャマ姿で向かい、肩肘をついて机に向かっている少女が一人。
部屋の主である、虹野沙希であった。
「う〜ん……」
大きくため息を一つ。
右手にはどこにでもあるようなシャーペンが握られていた。机には日記帳。それを前にして悪戦苦闘しているのだ。
「今日は、いろんなことがあったよね…」
虹野は今日、中央公園で彼とデートしたことを思い出す。
別に何もしてはいないようだったが、二人で噴水の前で夢、将来のことについて熱く語った。彼が目指しているのはプロのサッカー選手で、きらめき高校のサッカー部でも期待されているのだ。
「もし、サッカー選手になったら、オリンピックにでて、私を連れて行ってくれるって…」
虹野はそんな彼の思いがすごく嬉しかった。
「すごいよね…。もし、オリンピックに出られたら……」
「私は……」
ただ、応援しか出来ない自分が悔しかった。
「私じゃ応援しか出来ないけど…」
と涙する。
虹野にはそれしかない。彼に「頑張って!!」の声しかかけられないのだ。
「うまくかけないよ…」
と日記帳と向かい合う。
7月7日 七夕
今日は彼とデートした
まではよかったが、その後が続かない。胸がいっぱいでかけないのだ。
虹野は前の方のページをめくってみる。
……
早いもので日記を書き始めてから、かなりの日数が経っていた。今使っている日記帳は3冊目。
つまりは高校3年生、彼と出会ってからも3年たつのだ。
「今年で卒業か……」
しみじみと思う。
日記帳の初めのほうはきらめき高校に入学したことについて書いてある。
それが、クラブのこと、そして、だんだん彼のことについて書くのが多くなっている。
「やっぱり、私、恋してるのかなぁ…」
日記帳の前の方のページをめくる……
今日は雨、クラブも中止……
私はいつものようにサッカーボールを拭いていると
彼が忘れ物を取りに来たようだ
私になにをしてるのかって聞くと
大変だねって言って、手伝ってくれた
私は、いつもやってるからって言ったけど、彼は
「いつもやっててくれたの?」って言って、
「ありがとう」と私に言ってくれた
すごく嬉しかったし、彼のやさしさを知ったような気がした
「このころからかなぁ……」
と思い出す。いつの頃からかそんな彼のやさしいとこを見つけては日記に知らず知らずのうちに書いていたのだ。他にもいろいろ彼についてかかれていた。
「そう、去年の修学旅行でもやさしくしてくれたんだよね…」
そう、修学旅行中に熱を出し、寝込んでるのをずっとついていてくれたのも彼だった。
「私、あのとき、すごく嬉しくて…。でもすごく恥ずかしかったなぁ…」
と、思い出し、修学旅行の時のページを見る。
今日は修学旅行の最終日だったのに、私は風邪で熱を出して寝ていた
せっかく彼と一緒に京都の町並みを歩きたかったの…
すごく残念。でも、彼が一日中、そばにいて、看病してくれた。私はすごく、はすかしくて、逃げてしまいたかった
けど、でも、すごく嬉しかった。だって、ずっと一緒にいられたんだもの…。ずっと風邪引いて、一緒にいたかっ
たな。クラブとかではすごくぶっきらぼうだけど、すごく、やさしいんだ。
ずっと、一緒にいたいな。これからも…。
見ていて虹野は赤くなる。自分の日記を読んでいると必ずと言っていいほど、恥ずかしくなり、よく、こんな文章を書いたなと感心するばかりだった。
「うふふふ……」
と一人笑い。きっと、このあたりからなんだろうなと、自覚している。
クラブでは本当に無口でぶっきらぼうな彼も一緒にいるとすごくやさしい。ほかの誰も知らない彼の姿を自分だけが知っているようですごく嬉しかった。
「今日の日記まだ書けていない…」
日記帳に目をやるとまだ、さっきの2行だけが書いてあった。
虹野はそれの続きを書こうと努力はしているのだが、彼のことを思うとなぜか胸が熱くなって書けないのだ。
「素直に、思ったとおりに書けばいいんだよね…」
と自分に言い聞かせるようにつぶやいて改めて、日記帳に向かう。
7月7日 七夕
今日は彼とデートした。中央公園の噴水のそばにあるベンチに座って二人で夢について語った。
彼の夢はプロのサッカー選手になること。わたしは応援しか出来ないからずっと応援していきたいな。
彼がもし、プロになったら、私をオリンピックに連れて行ってくれるって言ってくれた。
私はすごく嬉しくて、胸がいっぱいになった。そんな彼に対して私の出来ることは応援して、いっぱいお弁当を
作って栄養をつけてもらうことくらい…。
でも、彼はすごく喜んでくれる。私のお弁当は世界一だって…。
今日もお昼に作っていったら、「これからもずっと私の料理たべいな」だって。
なんかすごく恥ずかしくなっちゃった。そんな彼のそばに私はずっといたいと思っている。
夢かなうといいよね……。
「夢かぁ……」
とまたため息。自分の夢はなんだろうって考えている。
料理が好きだから、料理の専門学校に行くつもりでいた。
そして、好きな人のために料理をいっぱいいっぱい作って喜ばせたい…。
そう、それが彼女の夢。
「あ!!今日は七夕だったよね」
と思い出したかのようにつぶやき、窓を開けて星を見る。晴れているので星がきれいだった。
「織姫様と彦星様も会えただろうね…」
と空を見上げる。風が少し強く、カーテンがゆれている。
「短冊無いけど…」
と両手を合わせて……
「彼の夢、プロのサッカー選手になるという夢がかないますように……」
「そして、私の夢、彼と一緒にいて、ずっとそばにいられますよに……」
と願い事をするとまた星空を見上げる。
すると、二つの星が、願いを聞いたかのようにきらりと輝いた。
END