「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」
第4幕:古式さんとの舞台裏
「 こ ん に ち は 、 藤 崎 さ ん 」
ピンクのお下げ髪の少女が、穏やかな表情で私の前に立っていました。
「あっ… 次の古式ゆかりさんですね」
私がそう聞くと、古式さんは微笑しながら、
「 は い 、 私 が 、 古 式 ゆ か り で ご
ざ い ま す 」
古式さんは笑顔を見せたまま、私に答えてくれます。
…それにしても、古式さんと話していると、なんだか私ものんび〜りしてきそうな…
「 藤 崎 さ ん も 、 こ れ か ら 告 白 す
る の で し ょ う か ? 」
古式さんが聞いてきました。
「うん、私もこのあと好きだと告白するつもりです。でもその前に、古式さんたちが告白するお手伝いをしなければならないので、ここでみんなを励ましているんです。」
「 そ う な ん で す か 。 藤 崎 さ ん も
大 変 で す ね 。 自 分 の こ と も あ る
の で し ょ う に … 」
「そんなこと… 私は古式さんが幸せになってくれればそれだけでも嬉しいわ。」
もちろん私も彼に告白して、伝説を成就させたい気はあります。でも今は古式さんに伝説を成就させてあげたいな、それも本心でした。
「 あ り が と う ご ざ い ま す 。 そ う
言 っ て 下 さ る と 、 私 も 嬉 し く な
り ま す ね 〜 」
古式さんはそう言って私に微笑みかけてくれました。 それにしても古式さんの怒った顔って、今まで3年間一緒にいて見たことがない気がします。
「ところで、古式さんは一体誰に告白するつもりなんですか?」
私にしては真剣な表情で聞きました。これほどまでに笑顔の素敵な女性のハートを射止めた人って、誰なんでしょうね。
「 あ の … こ れ か ら 『 館 長 』 様
に 告 白 し よ う と 思 っ て お り ま す
」
私は、古式さんの発言にビックリして聞き返しました。
「『館長』さん? 一体どこの館長さんですか?」
基本的には伝説はきらめき高校の生徒に言い伝えられたものですから、部外者がそのような伝説を知っていることなんてあり得ないのですが、私はその時焦っていました。
「 あ の … 正 確 に は 『 R - c h a n
』 と い う お 名 前 の 殿 方 で 、 そ の
殿 方 を 他 の 方 は 『 館 長 』 と お 呼
び し て い た の で す 。 き ら め き 高
校 を 今 日 御 卒 業 な さ る 殿 方 で 、
本 当 の お 名 前 は … 」
古式さんがいつものようにゆったりとした口調でその続きを言おうとした時、きらめき高校の周囲でいつの間にかたくさんの爆竹が鳴り響きましたので、その後の紐緒さんの話を聞くことは出来ませんでした。
…そういえば気がついたのですが、本名を名乗ろうとする時になんだか聞き取れなくなるようなことが起こっている気がするのですが…
「 あ ら あ ら 、 結 構 周 り が 騒 が し
い で す ね 〜 」
古式さんはここでも笑顔を崩さずに、話を続けました。
「「確 か 2 年 生 の 夏 の と き だ っ た
か と 思 い ま す 。 私 の 気 分 が 悪 く
な り ま し て 、 保 健 室 で お 休 み さ
せ て い た だ い て い た の で す が 、
そ の 時 優 し く 見 守 っ て 下 さ っ た
の が 『 館 長 』 様 で し た 。あ の 時
か ら 、 『 館 長 』 様 は 何 か と 私 の
こ と を 気 に か け て 下 さ り ま し て
、 私 も あ の お 方 と 一 緒 に お り ま
す と 、 な ん だ か 安 心 し て い ら れ
る 気 分 に な り ま し た 」
「何だか心暖まる話ですね」
古式さんの話を聞いていると、なんだか私もほのぼのとした感じにさせられます。
私も彼とそんな付き合いをしていければな、なんて、つい思ってしまいました。
「 で も 、 少 し だ け 困 っ た こ と が
ご ざ い ま し て … 」
「えっ、どういうことなんですか?」
私は古式さんの心配事に思わずどうしてなのか聞いて見たのですが、もちろん私はその理由を知っています。
古式さんのお父様は「古式不動産」の社長を経営しているのですが、どうもそのお父様、ヤ… 、
オッホン
とても娘の古式さんには甘くて、古式さんと親しい男の子には厳しいお方のようなのです。
「 『 館 長 』 様 は と て も お 優 し い
殿 方 な の で す が 、 お 父 様 が 『 館
長 』 様 を お 気 に 召 す で し ょ う か
… 何 分 に も 、 私 の 許 嫁 と な ら
れ る 殿 方 に は 『 古 式 不 動 産 』 を
お 譲 り し た い と 申 し て お り ま し
た か ら … 」
「お父様はどんな男の人がいいと言っているのですか?」
「 そ う で す ね 〜 、 や は り 厳 し さ
の あ る 殿 方 が 私 に は 相 応 し い 、
そう 申 し て お り ま し た 」
…でしょうね。
私も古式さんのお父様を見たことがあるのですが、やはり威厳がある方だな、と感じました。そしておそらくは古式さんの許嫁にもそのような姿勢を要求しそうでした。
「私はこう思うのですけど…」
私はそう言ってひと呼吸したあと、古式さんに自分の考えを伝えました。
「古式さんの好きな人は、やはり古式さんが決めるべきだと思います。だって、他の誰でもなく、自分がこれから一緒にいようと決める人ですから、やはりお父様やその他の理由などを気にしないで、その時の自分の素直な気持ちを心を込めて伝えてあげないと、恐らくこのあとの自分の人生の中で悔いを残すだろうと思うから…」
古式さんは真剣な表情で私のことばを聞いていました。その表情が、これ以上ないかも知れないというくらいに嬉しそうな表情になって、
「 あ り が と う ご ざ い ま し た 。 実
は 私 、 こ の よ う な 形 で 想 い を 伝
え て 、 『 館 長 』 様 に 御 迷 惑 を お
か け す る の で は な い か 、 そ う 心
配 を し て お り ま し た 。 で も や は
り 、 想 い を 素 直 に お 伝 え し て あ
げ ま せ ん と 、 あ の お 方 に も 私 の
気 持 ち が 伝 わ り ま せ ん ね 。 藤 崎
さ ん 、 本 当 に 素 晴 ら し い ア ド バ
イ ス を あ り が と う ご ざ い ま し た
。 」
古式さんはそう私に感謝の気持ちを述べてくれました。
その時、トランシーバーから彼が叫ぶ音が聞こえてきました。
私は思わずトランシーバーを手にとってボタンを押しながら、
「はい、管理人Aさん、どうかしましたか?」
ともはや当たり前のようにトランシーバーの向こうの相手に声をかけました。
彼は、ちょっと焦り気味の様子で、
「こちら管理人Aです。管理人Bさん、こちらの準備が完了しています。予定の時刻を過ぎていると思うのですが、大丈夫でしょうか?」
そう私に答えました。
時計を見ると、もう12時38分になっています。私も古式さんののんびりした雰囲気に合わせていましたので、予定の時刻を過ぎてしまいました。
「それじゃ古式さん、頑張ってね。吉報楽しみにしています。」
私がそう言うと、古式さんはこれまでの3年間で初めて見るくらい珍しい真剣な表情で私に頷いてから、伝説の樹に向かいました。
(頑張ってね、古式さん!)
私は心の中で、古式さんにそう叫んでいました。
古式さんが伝説の樹の陰に隠れたのを見計らって、私は彼に連絡を入れました。
それが伝わったのか、しばらく経って、『館長』さんが校舎から飛び出してきました。
『館長』さん、本当に穏やかな雰囲気ですね…
古式さん、私から見ても一生懸命、『館長』さんに自分の想いを伝えているようです。
私も陰から、古式さんの想いが通じるように一生懸命祈っていました。
突然古式さんが嬉しそうな表情になりました。どうやら想いは伝わったようです。
良かった… そしてこれからもお幸せに…
私は心の底からそう思いました。
次の瞬間、古式さんが言った言葉を聞いた『館長』さんの表情が、みるみるうちに蒼くなっていくのを感じました。
(もしかしたら、お父様に会いに行って下さいますか、と言ったのかな? 頑張って下さいね、『館長』さん)
私は思わず館長さんも応援してしまいました。
「藤崎先輩、御苦労様です」
次の瞬間、不意に後ろから声をかけられました。
(編集後記)
とりあえず第4幕を完了させました。
…とりあえずはこれで半分が終わった形になりました。
でもひな形があるにもかかわらず、なんて筆の進みが遅いのでしょうか。
結構連載系にしてしまっているのが多いので、処理が煩雑になってきております。
ところで…
毎度毎度告白の前の様子を書くのは大変です。
どんな事をテーマにして書こうかな、という事を考え、さらにその時のゲストキャラクターの性格などもサイトなどから読み取り、上手くつなげなければならないのですが、毎度毎度これでいいものやら、と自問自答しながら作っております。
この作品も館長様に気に入っていただけると宜しいのですが…
館長様も結構お忙しいようですけど、お身体にお気をつけて下さいませ。
最後になりますが、今回のゲストヒーローでありますR-chan館長様よりコメントをいただきたいと思います。宜しくお願いいたしますm(_ _)m
ゆかりんのんびりで良いですね〜。お父様が申すには、お相手は厳しいお方が良いそうなんですけど彼女の本心はどうなんでしょうね。
一緒にベンチで「ほぇ〜」っと1日過ごす方が良いかなっと思っていますけど・・・。
あ、ちなみに本当の私はお父様のようなお方大好きです。
「ヤ」な方とは話していて楽しいですよ・・・<これって問題発言?^^
追伸・・・館長は校長より強し・・・(意味不明^^;)
ありがとうございました。
ということで、次の第5幕、流離いの剣士様の「流離いの剣士の爆走生活」にてお会いしましょう〜(^o^)/