「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」
プロローグ:机の中の手紙
 私、藤崎 詩織です。
 きらめき高校の3年生で、バスケ部で一生懸命頑張る傍ら、生徒会の副会長も務めていました。
 成績も良くて…
 と、自分で言うのもなんか恥ずかしいんだけど、友達や先生方に言わせればやっぱり優秀な生徒らしかったんです、私。
 とにかく高校生活を楽しめました。
 でもちょっと心残りがあります。
 実は私には好きな人がいます。
 その人は私の向かいの家に住む幼馴染みで、小さいときからすっと一緒にいた人でした。
 一時期疎遠になったこともありました。
 男の子と一緒にいるとからかわれる時期ってあるじゃないですか。
 私たちはその気がなくても、友達に冷やかされると、なんだか一緒にいちゃいけないような気がして…
 彼もそんな気持ち持ってたみたい。何となく疎遠になってしまいました。
 でもきらめき高校に入ってからの彼は、凄く輝いていました。
 3年間一緒のクラスにいたんですけど、いつも彼は一生懸命頑張っていました。
 クラスでも、バスケ部でも、そして生徒会でも…
 中学生だった時にあまり見えてこなかったことも、一緒にいてはっきり見えてきたことも多くありました。
 いつしか私は、彼の背中を目で追うようになりました。
 私は中学生の時から、男の子に「付き合って下さい」と言われたことが結構ありました。
 でも私はその申し出を全部断わっていました。
 中学生の時には、男女交際をすることで、自分が崩れていくのが怖い、そう感じたからです。
 私には両親が様々な期待をかけてくれているのが分かりました。その期待を裏切りそうな気がして怖かったのです。
 高校に入ってからしばらくも、やっぱりそんな気持ちがありました。
 でもしばらくして、自分が男の子の申し出を断わる理由が変わってきたのに気がつきました。
 断わる理由を「男の子と付き合うことが怖い」そう言っていたのが、いつの間にか「好きな人がいるから…」という自分に気がついたのです。
 そう、彼の背中を目で追ううちに、「彼とだったら安心してお付き合いができる」そう感じるようになったのです。
 そのころなのでしょうね、彼に「恋愛感情」を抱いたのは。
 彼と一緒にいることが多くなり、彼との会話も増えました。
 彼と一緒にいると、すごく安心していられる、彼と会話しているとそういう気持ちになれます。
 何だか恥ずかしいけれど、彼と話をしている時の私の顔、結構嬉しそう、ってメグが私に言ったこともあります。
 そして彼の顔を見ていると、いつもの凛々しい顔とは違って、すごく暖かい眼差しを私に向けてきます。
 もしかしたら…
 彼のことを好きになった女の子が結構いるとは聞いていました。
 でも彼は誰とも付き合おうとはしませんでした。もしかしたら彼にも、想い人がいるのかも知れません。
 一体誰なんだろう。 すごく気になります。
 でも私のこの気持ちは止められません。
 今日は卒業式。その後、あの「伝説の樹」の下で、彼に告白しようと思います。
 「あなたが好きです」と…
 彼はもしかしたら断わるかも知れない、そのことがすごく怖い…
 でも後悔はしたくない。
 「卒業式が終わった後、伝説の樹の下に来て下さい」
 卒業式の日、3年A組に1番に来た私は、彼の机の中に手紙を入れた。
 あとは彼に想いを伝えるだけ。
 自分の席に戻った私は、机の中に1通の封筒が入っているのに気がついた。
 「一体誰なんだろう。まさか告白の手紙かな?」
 そう思って封を切ると、手紙が入っていた。
| 藤崎 詩織様  いつも貴方の御活躍、楽しみにしておりました。  最後になりますが… それでは宜しくお願いいたします。 きらめき高校「伝説の樹の下で」実行委員会 なお、告白者の一覧ですが… 1 虹野 沙希 様(12時12分) 今年の告白エントリー者は以上7名です。宜しくお願いいたします。 | 
(一体何、これ?)
 一瞬あっけに取られた私ですが、この「伝説の樹の下で」実行委員会の存在は実は私も知っていました。
 実は私は昨年度の実行委員をしておりました。
 慣例として、女子の生徒会長もしくは副会長が卒業生を指名してお願いすることになっています。
 だいたいは事情を良く知っている女子生徒会長もしくは副会長と、その方が想っている男の人を指名することになっています。私もだから昨年は、副会長をしていた先輩と、その方と仲の良かった同じ部活の男の子にお願いをしました。
(みのりちゃんったら、もう)
 私は苦笑しながら手紙をポケットに入れました。