虹色の想い出〜ときめきメモリアル虹野沙希編外伝〜
エピローグ きらめき高校の伝説の樹の下で
伝説の樹の下で、沙希と詩織が呼人と向かい合っている。
しばらくの静寂の後、まず詩織が一歩呼人に歩み寄ってから、口を開いた。
「まず私から言います」
呼人は直立不動のまま、詩織を見つめた。
「私は、今まで呼人くんがいることが当たり前だと思っていました。物心ついたときからずっと一緒で、小学校でも、中学校でも、そしてこのきらめき高校でも、呼人くんがいる風景が当たり前だと思っていたし、そしてそのことに何の疑問も持たなかった」
詩織は呼人を見つめながら、一呼吸置いて話を続ける。
「でも呼人くんがサッカー部に入部したときから、私は何となく気分が落ち着かなかった。クラスでは一緒にいるのに、どういうわけなのか、何となく一緒にいるという気がしなかったの」
沙希も詩織の告白を静かに聞いている。
「最近呼人くんと一緒に文集委員をやるようになって、その理由がわかったの。私、呼人くんと一緒にいろんなことをしたい。今までは呼人くんがいなかったから充実した気持ちが得られなかった、そのことに気づいたの」
詩織はそこまで言うともう一度呼吸を整えた。
「私は、呼人くんのことが大好き。これからもずっと一緒にいたいの」
詩織はありったけの想いを込めて、そう告白した。
「他の人からは『高嶺の花』だといわれていたのは知っています。呼人くんももしかしたらそう思っていたのかもしれないよね。でも私は、藤崎詩織は、呼人くんがそばにいてくれたから、私が私らしく振る舞えたんだと思います。本当の私は弱い人間です。呼人くんがいないとダメな女だと思います。物心ついたときから一緒にいた呼人くんのそばに、これからもずっといたいんです」
詩織は自分の想いをすべて呼人に告げたらしく、呼人に一礼をしてから一歩下がった。
次に沙希が一歩前に進み出る。
「呼人くん、私があなたをサッカー部に勧誘したとき、私は呼人くんが一生懸命頑張ってくれると信じていた。そしてあなたは本当に私を国立競技場に連れて行ってくれ、そして全国優勝を果たしてくれたね。私、すごく嬉しかった」
呼人は詩織のときと同じように、直立不動のまま沙希を見つめた。
「私、一緒に夜の練習に付き合ったとき、いつも一生懸命頑張る呼人くんのことを頼もしく思っていたし、同時に呼人くんに惹かれていったんだろうなと思う」
詩織も沙希の告白を静かに聞いている。
「そして気がついたの。卒業間近に呼人くんが藤崎さんと一緒に文集を作っているとき、私は独りぼっちになったような気がした。私、すごく寂しかった。そしてそのときに、私はこれまで感じていなかった感情に気づいたの」
ここまでいって、沙希も詩織と同じように呼吸を整えた。そして…
「北見呼人くん、私、これからもあなたと一緒にいたいです。あなたが一番大好きです」
沙希もありったけの想いを込めて、そう告白した。
「藤崎さんと違って、私はきらめき高校からの付き合いだし、そういう意味では呼人くんのことを知らないことも多いと思います。でも、これからずっと一緒にいたいという気持ちは、今まで過ごしてきた時間じゃなくて、その人のことを想う気持ちがどれだけ強いかだと思います。私、これからもあなたと一緒にいたい、その気持ちを誰よりも、藤崎さんよりも強く持っています」
沙希はほとんど見せたことのない、それこそ呼人が部活を辞めると言い出した時以来の真剣な表情で、呼人に語りかけていた。呼人も沙希を見ながら沙希の告白を真剣に聞いていた。
「もしかしたら呼人くん、藤崎さんのことが好きなのかもしれない。藤崎さんと付き合うことになるかもしれない、そんな気持ちはあります。私は呼人くんが藤崎さんと付き合うことになっても、呼人くんのことを友達としてこれからも応援していきたい
と思います。でも…」
先はそこで一呼吸おいて、
「やっぱり、呼人くんのことが大好きだから、呼人くんとこれからもずっと一緒にいたい。呼人くんのそばに、私がずっといたいです」
そう言ってから、沙希も一礼してから一歩下がり、詩織と並んだ。
沙希も詩織も、このあとは黙って審判が下るのを待つだけであった。
そして呼人が口を開いた。
「詩織」
「はい!」
呼人に呼ばれて、思わず詩織は嬉しそうに返事をした。
「俺がこれまで言いたかったことを、今ここで言います」
その言葉を聞いた詩織は緊張した面持ちで呼人を見つめた。
沙希は悔しそうな表情をにじませた。
「俺が今まで言えなかった気持ち、それは… 俺は詩織のことが好きだった、ということなんだ」
その言葉を聞いた詩織は嬉しそうな表情をし、沙希は涙を流し始めていた。
「嬉しい! これからも…」
詩織が嬉しそうに話そうとするのを、呼人は詩織の肩に手を置いて制した。
「どうしたの? 虹野さんが可哀相だから?」
詩織が聞いた。
「間違えないで欲しいんだ、詩織。かつては詩織と付き合いたい、これからも一緒にいたい、そう思っていた。でも今は違うんだ」
呼人の言葉を聞いた詩織の顔面が蒼白になった。詩織にも呼人の言葉の意味がわかったようである。
「確かに高校に入学したとき、俺は詩織と付き合いたいと思っていたし、詩織に伝説の樹で告白してもらいたかった。でも…」
「呼人くん、やめて! これ以上聞きたくない!」
詩織のせめてもの抵抗であった。
詩織はもう自分の置かれた立場がわかっていた。もう呼人は自分のものにできない、だからせめて、呼人から突き放されたくなかった。
呼人も詩織のその気持ちに気がついたのか、
「わかった。これ以上は俺からも言わない。でも… これからも幼馴染みとして、仲良くやっていきたい。わがままなお願いかもしれないけど…」
「うん、わかった」
詩織はそう言って、今の自分にできる精一杯の笑顔を呼人に見せた。
呼人は次に沙希のほうを向いた。
「沙希、今まで俺のことを応援してくれてありがとう」
沙希はまだ泣き続けていた。恐らく今の呼人と詩織の話を聞いておらず、まだ呼人が詩織と付き合うのだと思っているようである。
「俺はあの神社の夜練で、沙希と一緒にいるのがすごく楽しかった。いろんなことをしゃべっているうちに、沙希の存在がかけがえのないものになってきた気がした」
沙希はそこまで聞いて、顔を上げた。どうも呼人の話が自分に向いているので、妙に思えたのだろう。
「決定的なのは卒業文集を詩織と一緒に作っていたときだった。確かに詩織との話は楽しかったけど、同時に沙希がいなくて寂しかった。そのときに俺自身の気持ちも決まったんだと思う」
呼人はそういうと、しっかりと沙希を見つめて、はっきりとした口調で答えた。
「俺は虹野さんのことが好きです。これからもそばに一緒にいてください」
呼人の言葉を聞いた沙希は、またぼろぼろと涙を流しだした。
「ありがとう… 私… すごく嬉しい…」
あとは言葉にならなかった。
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それから数年後…
呼人はヨーロッパでも屈指の名選手として、誰もが一目置く存在になっていた。
その内助の功を果たしたのは、他でもない沙希であった。
結局高校を卒業したあと、呼人と沙希は結婚した。
詩織も幼馴染みの結婚を、心から喜んでいたようだった。
呼人は高校を卒業してJリーグのチームで活躍した後、21歳の若さでイタリアの名門チームにスカウトされ、沙希と一緒にイタリアに渡った。
最初のころはいろいろ戸惑ったこともあったが、すぐにチームに欠かせない存在として頼られるようになった。
そして「紫」の愛称で知られるそのチームは、いつしかセリエAの強豪として知られ、北見呼人の名前は世界中に知られるようになった。
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沙希は詩織にメールを送っていた。
沙希と詩織はあの後、何のわだかまりもなく友達付き合いをするようになった。
話題はもっぱら呼人のことであった。沙希は今の呼人の話を詩織にして、詩織からは幼馴染みとして沙希にアドバイスを送っている。
そして今日は、明日呼人が日本代表に合流するためにイタリアから帰国することを報告した。そして…
「詩織さんにお知らせしたいことがあります。私、呼人くんの子どもを身ごもりました。呼人くんはしばらく住み慣れたきらめきで過ごした方がいいと言っていましたし、私も同じ考えです。明後日きらめきに戻ってきますが、まず詩織さんに会いたいです」
そう書いて送信したあと、詩織からすぐにメールが戻ってきた。
「沙希ちゃん、おめでとう。私も沙希ちゃんの帰りを楽しみに待っています。もちろん呼人くんも、ですけどね」
完―
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作者あとがき
今回250000ヒットを踏んだ記念として始まったSS「虹色の想い出」、いかがだったでしょうか。
最終的にはそれに「虹野沙希ちゃんお誕生日おめでとう記念」というおまけもつくのかな、と(笑) でも誕生日から10日経ってますけど(爆笑)
今回は「虹色の青春」をモチーフとしたSSとして執筆しましたが、つれづれなるままに書いていたので、「1と2のクロスワールド」や「ダブル告白」など、1本編ではまずあり得なかった試みも入れてしまいました。
このSSの感想は、ここの伝言板等でも構いませんし、直接メールで送っていただいても構いません。
でもこの物語にはまだ続きがありそうです(笑)
妊娠した沙希が日本に戻り、呼人がひとりでイタリアに残ることから、心配した詩織が沙希の代わりに呼人の傍に行き、そこで呼人と詩織が深い仲になって、詩織が呼人の子を妊娠して…
…てなことになるのでしょうか?
すべてはこれからの彼等の行い次第ですね。
ここでは「きらめきでの想い出」がメインですので触れません。皆さんひとりひとりがこの後の展開を想像していただけると幸いです。
ちなみに、1つだけデータをお伝えします。
詩織は呼人に振られた後も、けっして他の男と付き合おうとはしませんでした。だけど決して呼人を沙希から奪おうともせず、呼人と沙希にとっていい友達になっていきました。もちろん…
それではここでこの物語を本当にお終いにしたいと思います。
また機会がございましたら、是非私の拙いSSをご覧下さいませ。
「あなたに出会えて、本当に良かった…」
平成17年1月22日(土)22時55分 脱稿
「虹色の想い出」(スーパー白鳥13号)