「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」


第6幕:美樹原さんとの舞台裏

「し、詩織ちゃん…」
 いつもの聞き慣れた声を聞いて振り返った私は、そこにいる人を見て驚いてしまいました。
「め、メグ…」
 唖然とした表情で呼んだのが分かったのでしょう、メグは途端に心配な表情になって、
「し、詩織ちゃん… おかしい… ですか?」
 メグが今にも泣きそうな顔になっています。
「ゴメンなさい。今までのメグの印象があったから、いきなりでびっくりしたの。本当にゴメンなさい」
 私はそう言ってメグに謝りました。
「そ、そう言えば… し、詩織ちゃんは何でここにいるんですか!? ま、まさか…」
 メグはまた悲愴な顔つきになります。 …まったく、メグは本当に心配性なんだから。
「違うわよ。私はここで告白する人のお手伝いをしているだけ。メグもここで告白するというから、楽しみにしていたんだけどね」
「そ、そうなんですか… し、詩織ちゃんも今日ここで?」
「うん、私もこのあと好きだと告白するつもりだよ。でもその前に、メグたちの想いが叶うように頑張らなくちゃね」
「そうですか… し、詩織ちゃんも大変ですね」
「うん。でもね、その分最後に楽しみたいと思っているけどね。でもまずはメグに想いを遂げてもらわないとね」
 もちろん私も彼に告白して、伝説を成就させたい気はあります。でも今はメグに伝説を成就させてあげたいな、それも本心でした。
「そうなんだ… 詩織ちゃんも頑張ってね」
 メグはそう言って逆に私を励ましました。

「ところで、メグは一体誰に告白するつもりなの? 髪の毛をカールにして…」
 私にしては真剣な表情で聞きました。これほどまでに、それこそ3年間見慣れたヘルメット頭… じゃなくてストレートの美しい髪にあえてパーマをしてカールさせてまでメグの想いを遂げたいと思っている彼って、誰なんでしょうね。
「これから、『箕や』さんに告白しようと思っているの」
 私は、メグの発言にビックリして聞き返しました。
「『箕や』さん? 一体どういう人なんですか?」
 基本的には伝説はきらめき高校の生徒に言い伝えられたものですから、部外者がそのような伝説を知っていることなんてあり得ないのですが、私はその時焦っていました。
「あっ、その人はもちろんうちの生徒です。で今1年生なんです」
「へぇ〜、年下の男の子を好きになっちゃったんだ」
 ちょっとからかい気味です。まあ伝説は片方が在校生でも成就されると言われますし、さっきは美咲さんも来ましたからね。
「うん、実は彼、北海道からきらめきに来たんです」
「へぇ〜」
 でもなんで北海道から?
 でも良く考えたら、もう1つ聞くのを忘れていました。
「それで、その人の本名は?」
「うん、彼の名前は…」
 そうメグが言い出した途端、また暴走族がけたたましい音を響かせて脇の道路を通っていきました。
「うるさいわ!!」
 思わず大声で叫んでいました。

「彼との出会いは、一昨年の秋の修学旅行のときだったんです」
 メグはそう言いました。確かに2年の秋の修学旅行は北海道に行きました。
「それで自由行動のときに、ひとりで湿原に行ったんです。そしたらヒグマが出てきて… 私、どうしようもなくて食べられてしまうのかな、そう観念していました」
「そうだったんだ…」
 私はその頃、彼と一緒にいました。やはりヒグマに襲われて、でも猟師の方に助けてもらった憶えがあります。
「その時に、彼が現れたんです。彼、一生懸命ヒグマと戦ってくれて、それでかなり怪我をしたんだけど、結局ヒグマを追い払ってくれたんです」
「すごいね!」
 彼はそこまで強くありませんでしたから、心底びっくりした表情になっていたでしょうね。
「それで、わたし大怪我した彼を放っておけなくなって、膝枕してあげたんです」
 へぇ〜。
 奥手のメグが、そこまでしてあげてたんだ。普段ならそんなこと恥ずかしくて出来ないだろうに、多分メグのために一生懸命頑張っていた彼にキュンとなっていたのかも知れないですね。
「彼、背中に大きく爪で引き裂かれたあとがあったから、膝枕をしながら、背中を治療してあげたんです」
 メグもかいがいしいですね。
 でも… あれ?
「背中を治療していた、ということは、メグは彼をうつぶせに寝かせていたの?」
「うん、そうだよ。そうでないと治療できないじゃない!」
 メグはそう言って反論していましたが、私はあることに気がつきました。
 その恰好って、一歩間違えるとくん…
「彼、その時は私に甘えてくれて、痛いだろうに我慢して治療を受けてくれてたんだ」
「痛いって、なんでそうだと思ったの?」
「だって時々、彼、痛そうな表情をしながら身体を起こそうとするんだ。特に腰の当たりを…」
 …多分別の意味で辛かったんでしょうね、彼。
「治療したあと、彼がまだ中3だったと聞いてびっくりして… 彼もきらめき高校を受けると約束してくれて… その時にもう少し大人っぽくなれよ、と言われたんです」
 やっとメグがカールヘアーになった理由が分かりました。
 メグにしてみれば、自分が精一杯大人になったとアピールしたいんでしょう。
 そこまでメグは彼のことを思っていたし、彼もメグを好きでいたのかも知れませんね。
「そっか…」
 私はそう言ってひと呼吸したあと、メグに自分の今の気持ちを伝えました。
「絶対メグの想いは叶うと思います。だって、彼はメグのために北海道からきらめきに来てくれたんでしょう? そこまで想っている彼が、メグの告白を振ることはないと思うよ。自信を持って、彼に自分の想いを伝えてあげて下さい」
 メグは真剣な表情で私のことばを聞いていました。その表情が、これ以上ないかも知れないというくらいに嬉しそうな表情になって、
「ありがとう、詩織ちゃん! 私、これから頑張ってみる」
 メグはそう私に感謝の気持ちを述べてくれました。

 その時、トランシーバーから彼が叫ぶ音が聞こえてきました。
 私は思わずトランシーバーを手にとってボタンを押しながら、
「はい、管理人Aさん、どうかしましたか?」
 ともはや当たり前のようにトランシーバーの向こうの相手に声をかけました。
 彼は、ちょっと焦り気味の様子で、
「こちら管理人Aです。管理人Bさん、こちらの準備が完了しました。予定の時刻になっていますが、大丈夫でしょうか?」
 そう私に答えました。
 時計を見ると、もう12時51分になっています。
「それじゃメグ、頑張ってね。吉報楽しみにしています。」
 私がそう言うと、メグは自分に勇気を込めるかのように一回大きく深呼吸してから、「それじゃ、頑張ってきます」と言って伝説の樹に向かいました。
(頑張ってね、メグ!)
 私は心の中で、メグにそう叫んでいました。

 メグが伝説の樹の陰に隠れたのを見計らって、私は彼に連絡を入れました。
 それが伝わったのか、しばらく経って、『箕や』さんが校舎から飛び出してきました。
 『箕や』さんも、さすがに緊張した面持ちです。
 メグ、私から見ても一生懸命、『箕や』さんに自分の想いを伝えているようです。
 私も陰から、メグの想いが通じるように一生懸命祈っていました。
 突然メグが嬉しそうな表情になりました。どうやら想いは伝わったようです。
 良かった… そしてこれからもお幸せに…
 私は心の底からそう思いました。
 次の瞬間、メグは私の方を向いて、ペコリとお辞儀をしました。
 恐らく感謝の気持ちと、私の告白が上手く行くようにという想いを込めたお辞儀だったのでしょう。
 私はメグの姿を、嬉しそうな表情で見つめていました。

「藤崎さん! もしかして…」
 次の瞬間、天使のような声が不意に後ろから聞こえてきました。


(編集後記)
 とりあえず第6幕を完了させました。

 …あと10日もないのですけど。
 3月1日に最終話を掲載する予定ですが、間に合うか(^^;;;;;)

 ところで…
 毎度毎度告白の前の様子を書くのは大変です。
 どんな事をテーマにして書こうかな、という事を考え、さらにその時のゲストキャラクターの性格などもサイトなどから読み取り、上手くつなげなければならないのですが、毎度毎度これでいいものやら、と自問自答しながら作っております。
 この作品も箕や様に気に入っていただけると宜しいのですが…
 箕や様も最近学生生活等で結構お忙しいようで、気がつけばサイトがなくなってしまっていますけどw、本当にお身体にお気をつけて下さいませ。

 最後になりますが、今回のゲストヒーローであります箕や様よりコメントをいただきたいと思います。宜しくお願いいたしますm(_ _)m

 ありがとうございました。
 ということで、次の第7幕、まありんこん♪様編にてお会いしましょう〜(^o^)/

 それにしても…
 詩織ちゃん、「あれ」を御存知なんですねw

BACK NEXT