「卒業式の日の藤崎詩織〜伝説の樹の下の裏側で〜」


第7幕:館林さんとの舞台裏

「藤崎さん! もしかして藤崎さんもストーカー?」
 天使のような声を聞いて振り返った私は、そこにいるコアラ髪の少女が立っているのに気づきました。
「館林さん?」
 私が声をかけると、館林さんは笑いながら、
「まあ藤崎さんがストーカーするとは思えないけどね…」
 と嬉しそうに答えました。
「そう言えば、館林さん、私『も』ってどういうこと? もしかして…」
 私は館林さんの言葉に気がついて、突っ込んだ質問をしていました。
「うん、私ストーキングしていました。そのことはあとで話します。それじゃ藤崎さんは?」
 館林さんはまだ私をストーカーだと思っているみたいです。
「違うわよ。私はここで告白する人のお手伝いをしているんです。館林さんがここで告白するというから、励ましてあげようとも思っているわよ」
「そうだったんだ… ゴメンなさい、藤崎さん」
 館林さんは事情が分かって、素直に私に謝りました。
「でも、藤崎さんはどうするの?」
「うん、私もこのあと好きだと告白するつもりです。でもその前に、館林さんの想いが叶うように頑張らなくちゃね」
「そっか… 藤崎さんも大変なんだ」
「うん。でもね、その分最後に楽しみたいと思っているけどね。で館林さんが想いを遂げてもらったらお仕事は終わりだから、あとは、ね」
 もちろん私も彼に告白して、伝説を成就させたい気はあります。でも今は館林さんに伝説を成就させてあげたいな、それも本心でした。
「そっか… 藤崎さんも頑張ってね」
 館林さんはそう言って逆に私を励ましました。

「ところで、館林さんは一体誰に告白するつもりなの?」
 私にしては真剣な表情で聞きました。館林さんがストーキングをしてまで想いを遂げたいと思っている彼って、誰なんでしょうね。
「その前に、藤崎さんに謝らなくちゃいけないですね。」
 私は、館林さんの発言に驚きました。一体何を謝られることがあったんでしょうか。
「どういうこと?」
「実は私がストーキングしてた男の子って、藤崎さんの幼馴染みの彼なんだ。」
 私は今度は心底から驚きました。
「えっ! そ、それじゃ!」
 そう館林さんに問いつめる私の顔は、恐らく青ざめていたに違いありません。
 館林さんはそんな私の不安をやわらげるように、
「ううん。藤崎さんの幼馴染みの彼も好きでした。でも今は、別の人を好きだと自信を持って言えます。」
 私は館林さんの言葉で、やっと気持ちが落ち着きました。
 さすがに管理人が焦っていちゃ、ね。
「でも、どんな人なんですか?」
「うん。あのね、『まありんこん♪』さんという人なんだ」
「『まありんこん♪』さん? 一体どういう人なんですか?」
 基本的には伝説はきらめき高校の生徒に言い伝えられたものですから、部外者がそのような伝説を知っていることなんてあり得ないのですが、私はその時焦っていました。
「もちろんきらめきの卒業生。今日もちゃんと名前を呼ばれたよ」
「それで、その人の本名は?」
「うん、彼の名前は…」
 そう言って館林さんがとある地名を言った途端、

ドカン!

 音のした方を見ると、トラックが柵に突撃しているところが見えました。
 もはや何かの偶然とは片付けられません。

「彼との出会いは、実は藤崎さんの彼をストーキングしている時だったんです」
 館林さんはそう言い出しました。
「彼は私と同じクラスだったんだ。で休み時間ごとに一番遠いA組に行っていたから、何してるんだろう? って気になっていたみたい」
「そうなんだ…」
 私は何となく彼の気持ちが分かる気がしました。
「それで陰から藤崎さんの彼を見ている時にね、『そんなに彼のことが気になるんなら、アタックしてくればいいじゃないか』と言ってくれたんです」
「へぇ〜」
 そんなことがあったんですね。あれ、そう言えば彼…
「それで、廊下でぶつかって私を知ってもらおう、なんて不純なことをし始めたんです」
 そうだったんだ。
「だけど、いつまで経っても私のことを気にしてくれる様子もないし、彼はむしろ藤崎さんのことを気にしているから、私の入り込む余地はないのかな、そう思うようになってきたんです」
 館林さんの告白を聞いているうちに、何となく私の心に余裕が出てきました。
「そんな時に彼、私を見つめながら、『館林はあの彼のことが好きなんだろうけど、そんな館林のことを好きだと言ってくれる男だっていると思うよ。もっと自分に自信を持とうよ』そう言ってくれたんだ」
 結構彼、いい人ですね。
「その時に気づいたんだ。もしかしたら彼、実は私のことが好きなんじゃないかって。あえて言わないけど、私に気づいて欲しかったんじゃないかなって」
「それでどう思ったの? 館林さんはその彼のこと…」
 私はそう言って館林さんの答えを引き出そうとしました。
「だから、もう藤崎さんの彼は諦めることしたの。だって、自分の傍にこれだけ素敵な人がいるって気づいたんだもん」
「そうなんだ」
「でも私が気が変わったのを悟られたくないから、今までと変わらない態度で彼と接してきたし、藤崎さんとの彼とも先週の日曜に1回だけデートしたんだ」
 そう言えば先週の日曜、急にデートしたくなって彼に電話したけど、珍しく断わられました。そういう事情があったんですね。
「その時彼に言いました。私は貴方が好きだった、と。だけど私は貴方に告白できない。貴方以上に好きな人が出来たから、そう彼に告げました」
「それで? 彼は何て言ったの?」
「彼は、『館林さんが結構俺のことを気にしているのは気がついたけど、ゴメン。俺には本当にこれからも一緒にいたい人がいるんだ』そう言われました。その人から、来週の卒業式のときに伝説の樹の下で告白を受けたい、そう言っていました」
「そうだったんだ…」
 館林さんの気持ち、何となく分かりました。
 恐らくこうやって声に出すことで、幼馴染みのあの「彼」ヘの思いを忘れようとしているんでしょう。
 でも…
 私はそう言ってひと呼吸したあと、館林さんに自分の今の気持ちを伝えました。
「1つだけお願いがあるんだ。あそこで彼に告白する時、絶対に『他の男の子のことが好きだった』という事実は語って欲しいの」
 今度は館林さんがビックリしているのが分かりました。普通告白の時にそんなことは言えないでしょうから。
「藤崎さん!」
 館林さんはそう抗議しようとしましたが、私は構わず話を続けました。
「大丈夫。『まありんこん♪』さんは分かってくれます。だって『彼』を追っかけている貴方に声をかけたんでしょう。だから事実は言って欲しいの。そして…」
「そして…?」
「彼にこう言うの。『彼』の代わりとしてではなく、『彼』以上の存在として、貴方を好きになった、と。大丈夫。『まありんこん♪』さんなら分かってくれます」
「うん…」
 館林さんは辛そうな表情をしました。

 その時、トランシーバーから彼が叫ぶ音が聞こえてきました。
 私は思わずトランシーバーを手にとってボタンを押しながら、
「はい、管理人Aさん、どうかしましたか?」
 ともはや当たり前のようにトランシーバーの向こうの相手に声をかけました。
 彼は、ちょっと焦り気味の様子で、
「こちら管理人Aです。管理人Bさん、こちらの準備が完了しました。予定の時刻になっていますが、大丈夫でしょうか?」
 そう私に答えました。
 時計を見ると、もう12時59分になっています。
「それじゃ館林さん、頑張ってね。吉報楽しみにしています。」
 私がそう言うと、館林さんは私を一瞥して、「本当に言うんですか?」と聞いた。
「大丈夫! 私を信じて!」
 私はそう言って、館林さんを伝説の樹に送り出しました。
(頑張ってね、館林さん!)
 私は心の中で、とぼとぼと歩く館林さんにそう叫んでいました。

 館林さんが伝説の樹の陰に隠れたのを見計らって、私は彼に連絡を入れました。
 それが伝わったのか、しばらく経って、『まありんこん♪』さんが校舎から飛び出してきました。
 『まありんこん♪』さんも、さすがに緊張した面持ちです。
 館林さんは、最初どうしようか迷った表情をしていましたが、そのうち涙を流しながら一生懸命、『まありんこん♪』さんに自分の想いを伝え始めました。
 私も陰から、館林さんの想いが通じるように一生懸命祈っていました。
『まありんこん♪』さんは館林さんの告白を、神妙に聞いていました。恐らく館林さんの言っていたことを分かっていたのでしょう。
 突然館林さんの頭を『まありんこん♪』さんが撫でてきました。館林さんが涙を流しながらも、嬉しそうな表情になりました。どうやら想いは伝わったようです。
 良かった… そしてこれからもお幸せに…
 私は心の底からそう思いました。
 次の瞬間、館林さんは私の方を向いて、親指を立ててきました。
 恐らく感謝の気持ちと、私の告白が上手く行くようにという想いを込めたお辞儀だったのでしょう。
 私は館林さんの姿を、嬉しそうな表情で見つめていました。

「藤崎さん、 お久しぶり…」
 次の瞬間、春の風を思わせるような暖かい声が不意に後ろから聞こえてきました。


(編集後記)
 とりあえず第7幕を完了させました。

 …あと10日もないのですけど。
 何とか次回最終話というところまで漕ぎ着けました。

 今回はちょっとブルーな展開でした。
 いやほら、『まありんこん♪』様をストーカーしていた展開というのも面白いのですけど、紹介にもこう書いていますしw

>みはりんを「特急『スーパー白鳥13号』」の投票でランキング2位に押し上げている原動力となっている(らしい)ほどのプッシュで、とうとうみはりんに振り向かせることができた。

 やっぱり詩織の幼馴染みをストーキングしてたみはりんを『まありんこん♪』様が振り向かせた、という今回の展開の方が面白いと思いました。
 まあ詩織が焦るのも面白いかな、とw

 最後になりますが、今回のゲストヒーローでありますまありんこん♪様よりコメントをいただきたいと思います。宜しくお願いいたしますm(_ _)m

 あの『彼』以上の存在として見晴ちゃんから告白を受ける…ミハリストとしては、最高の結末ですね♪
 人気投票で頑張った甲斐がありました(笑)
 (でも、ちゃんと分割投票していたんよ(^^ゞ)
 見晴ちゃんは僕が必ず幸せにします!!

 ありがとうございました。
 ということで、次はとうとう最終話になります! 3月1日、きらめき高校の卒業式の日にお会いしましょう〜(^o^)/

 そういえば…
 今回紹介に八重花桜梨さんと北見呼人くんが出ているのに、未だに顔を出しておりませんw
 一体どういう展開で出てくるんでしょうか?w
 まあ構想は出来上がっていますがw
 一応この作品は「詩織のハッピーエンドが見たい」という「虹色の想い出」での感想がもとになっていますから、もうバレバレなんですがw

BACK NEXT